こんにちは。
フリーライターの横田です。
近年、遺品整理という言葉を耳にする機会が増えたと思いませんか?
誰にでも関係のある話と言えるでしょう。
少子高齢化や核家族化に伴い、「故人と離れて暮らしているため片付けが大変」「まとまった時間が取れない」「分別がわからなくて片付けが進まない」など遺品整理にまつわる悩みや苦労を聞きます。
そのような背景を受けて、遺品整理に参入する業者が増えてきました。
しかし需要が増加する一方で、遺品整理業者のイメージはつかみにくく、頼みたいけれどどうしたらいいかわからないという人も多いようです
そこで、鹿児島で遺品整理を手掛ける「整理のゴダイ」代表の松本さんに、遺品整理というお仕事について教えてもらいました。
松本周作さんプロフィール
鹿児島県出身。27歳の2012年にリサイクルショップ「リユースショップ五代」を開業。その後、2014年から「整理のゴダイ」として不用品回収のサービスをスタート。整理のゴダイは “わかりにくい不用品回収のサービス・料金をどこよりもわかりやすく提供すること” をモットーにしています。
――遺品整理のお仕事について教えてください。
遺品整理とは、故人宅の家具や日用品など一式を片付けるお仕事です。
流れとしては、電話やメールで問い合わせをいただいた後、無料で現地見積もりを行い、納得してご依頼いただけたら日時を決めて訪問。
分別をしっかり行いながら遺品をお片付けし、残すべき品はお客様にお渡しし、最後に家を簡易清掃してお宅を後にします。
個人宅には思い出の品や貴重品など、大切に残しておきたいものもあるかもしれません。
そこで、現地見積もりの際に「ヒアリングシート」を作成し、写真や手紙など残すべきものを丁寧に聞き取りさせていただいております。
お仏壇や神棚、位牌や遺影などの供養すべきものは、提携寺院での合同供養にお出ししています。
そして、供養の完了報告を希望される場合は、「合同供養証明書」にて写真入りで郵送し、報告しています。
――遺品整理と聞くと、故人にまつわる品を丁寧に探されているイメージが強いです。「思い出の品を探してほしい」という依頼は多いのですか?
実はそれほど多くありません。
ほとんどのお客様は一度自分たちで家を確認し、思い出の品や形見、貴重品などは引き取っていらっしゃいます。
なので、私たち遺品整理業者に求められる役割としては「見落としがないか2回目のチェックをする」というところが大きいです。
そして、「プライバシーに踏み込んでもらいたくない」「写真や手紙をジロジロ見ないでほしい」と考える方も多くいらっしゃるので、しっかり配慮しなくてはいけません。
事前にヒアリングシートで聞き取りの際に、思い出の品などの探索を希望されなかった場合は、現金や通帳類以外は細かく確認することはせずにテキパキと片付けを行います。
もちろん、写真や手紙など思い出の品はしっかり確認してもらいたいという方もいらっしゃるので、お客様によって対応はそれぞれあわせております。
気を付けているのは、口頭でのやりとりだけでなくきちんと書面(ヒアリングシート)で残し、残すべきものや見る必要のないものを丁寧にお伺いしておくことです。
――最近テレビや雑誌で「生前整理」や「終活」などのキーワードをよく聞きます。実際に「生前整理をしてほしい」という依頼は多いのでしょうか?
さほど多くありませんが、時々依頼はあります。
ほとんどのケースが「福祉整理」とも言われる片付けで、賃貸住宅から老人ホームへお引越をされる際などでご利用いただいております。
生前整理に関して、私個人としては『生活に支障がないなら無理に生前に片付ける必要はない』と思っています。
最近のテレビや雑誌などでは、「終活」「エンディングノート」などのキーワードで特集が組まれ、残された人に苦労をかけないように生前整理を進めようという風潮があります。
もちろん、ある程度いらないものを片付けておくのは大切なことではありますが、私は物に囲まれて亡くなる幸せも尊重したいと考えています。
へその緒や母子手帳、子供たちが使っていたランドセル、子どもたちの写真。親にとってそれぞれに鮮明な思い出があることだと思います。
これらを捨てることは、親にとっては自分の一部を失うような心苦しさがあるかもしれません。
もし、お客様から生前整理について聞かれたら「○○万円くらいのお金が片付けに必要になると思うので、その準備や(親と子の)どちらが負担するか決めておくと心配が減りますよ」と答えています。
それができるように、「整理のゴダイ」では明確な料金体系とこれまでの費用実績を明示しています。
――メディアの扱い方と実際のギャップを感じていらっしゃる部分は他にもありますか?
はい、あります。遺品整理というお仕事の特性上、メディアなどでは「気持ちに寄り添う」「故人の気持ちを汲む」など感情面に焦点があてられた特集が多く、そればかり目立つような印象があります。
もちろん、遺品整理は故人の思い出の品を扱いますので、相手の立場に立って考えることは大切です。
しかし、不用意な共感の言葉をかけたり、個人の事情に立ち入ったりすることは、相手の負担になることだってあります。
「よかれ」と思ってかけた言葉が人を傷つけてしまった経験など、誰もがあるのではないでしょうか?
私にできることは、「プロとしての仕事に徹すること」です。
私がお客様にできることは、「わかりやすく明確な料金設定」「迅速丁寧な仕事」「プライバシーやご近所に配慮した仕事」これらをしっかり提供することです。
このことがお客様のご負担を精神的にも費用面でも軽減するお手伝いができると考えています。
――遺品整理の仕事を始めたきっかけを教えてください。
私は2013年にリサイクルショップを立ち上げ、鹿児島県内全域でお客様宅へ出張買取で訪問していました。
その際に多くの方から「買取ができないものは、お金がかかってもいいから処分をお願いできませんか?」と聞かれていました。
かなりの頻度で聞かれたので、必要とされている仕事だと感じました。
しかし当時の私は、処分を受注するための行政許可や運搬車両、人手もありませんでした。
そこで信頼できる業者を紹介しようと探しましたが、料金体系がわかりにくかったり、どんな方が作業するかわからなかったりと「ここならお客様に心から紹介したい!」と思えるところが見つかりませんでした。
逆に考えると、事前に料金もスタッフの顔もわかる安心なサービスを提供することは、今とても必要とされていることなのではと考えるようになりました。
そこで2014年に遺品整理・不用品回収を行う「整理のゴダイ」を立ち上げ今に至ります。
――「整理のゴダイ」を始めてから、どんなことに気をつけてお仕事されていますか?
まずは顔を見せることです。ホームページを作成し、私のプロフィールとスタッフ紹介を掲載しました。
また、仕事に利用する実際のトラックやサービスの具体的な流れも紹介しています。
遺品整理は訪問型のサービスなので、利用されるお客様にとってどんな人が来てくれて、どのように仕事を進めるのか不安に感じると思います。
なのでそういったことが予めお問い合わせの『前段階』でもわかるようにしておくことは安心感に繋がります。
つまりスタッフの顔や名前などを事前にわかるようにすることは、大切な気配りだと考えています。
▲整理のゴダイのホームページ。料金相場や作業の流れ、実績、スタッフ紹介と情報が整っています。
そして、最も大切にしていることは “わかりにくい不用品回収のサービス・料金をどこよりもわかりやすく提供すること” です。
これは「整理のゴダイ」のモットーでもあります。
遺品整理業界は料金体系が複雑です。
作業時間や人数の軸に料金計算をしている場合は、作業が終わるまで金額が確定しなかったり、また後から追加料金を請求されたり、といったトラブルをよく聞きます。
そこで「整理のゴダイ」では、「回収するものの合計体積のみ」を軸にして計算する明確な料金体系を確立しました。
そして見積もりは必ず書面で残してお客様にお渡ししています。作業終了後、これ以上の金額が請求されることは一切ありません。
――そもそも、どうして遺品整理業社の料金トラブルが多いのでしょうか?
それは、「作業にかかった人数や時間」も料金の要素に入っているお店が多いので、作業が終わるまで最終的な金額が確定しないところが大きいと思います。
スタッフの作業スピードによって片付けにかかる時間は変わってきます。
極端な話、遺品整理業者にとって「作業員がゆっくり作業するほど儲かる」ようになっていたら費用面では依頼したお客様は一方的に不利になりますよね。
さらに言うと、不用品を回収するトラックが小さいと処分場とお宅を何度も往復して不用品を搬出しなくてはいけません。
すると、どうしても時間がかかり費用がかさみます。
整理のゴダイでは、最大4トントラックまで準備することで、搬出や運搬にかかる時間を短縮しました。
また、300kg近くあるピアノを運搬できる体力のあるスタッフが揃っています。
なので大体平均で、マンションでも、一戸建てでも一日あればすべての搬出作業を終わらせています。
そのための業務の流れは徹底的に見直して効率化を図りました。
――とはいえ、お宅によっていろいろ条件が変わりますよね。明確な料金体系を打ち出すのはすごく難しく感じますが、いかがでしょう?
たしかに立地条件、たとえば「1階からの搬出」と「5階からの搬出」だと体力面で負担が違ってくるので料金を変動させたくなる気持ちも分かります。
ただ一方で、料金を複雑にすればするほど頼みづらいサービスになってしまうと感じていました。
なので日頃のトレーニングで体力的にカバーできる部分は追加料金をいただかない形にした方がいいと思いました。
どうすれば明朗な料金をご案内できるか思い悩みましたが、シンプルに『家財の量』だけで計算することが誰がみても一番分かりやすいだろうという結論にたどり着きました。
『家財の量』は運び出す家財の合計体積で計算します。
そうするとお宅の床面積である程度上限を割り出せます。
家の大きさは決まっているので、どんなに詰めたとしても入る量には限りがあります。
たしかに明確な料金体系を作るのは難しかったですが、遺品整理のサービスを開始した時から常に明朗な基準を作ることを強く意識しました。
なので見積もりと請求金額がぶれない軸にこだわりました。
一方的に経験則と勘で、自分たちの頭の中だけで見積もっていてはお客さまにはわかりづらいです。
その点、体積は誰とでも共有できる明確な物さしになります。
遺品整理というサービスを利用されるお客様は、ほとんどが初めて利用される方です。
料金の目安がわからなくて不安を抱えていらっしゃいます。
だからこそきちんと明確な料金基準を作る努力をしていくことは会社としての責任だと思いました。
――「会社としての責任」という言葉がでましたが、これからの遺品整理業界の在り方についてどう思われますか?
あるべき姿としては「普通の人があたり前に頼めるサービスにしたい」と思っています。
需要も増えていますし、必要としている人も多いので、頼む際のハードルをなくしていきたいです。
そのために一番必要なのは、料金をわかりやすくすることだと思います。
現状だと「いくらくらいですか?」という問い合わせに対して「いくらからです」という回答をしている遺品整理業者がほとんどです。
これではお客様の質問している意図に応えられていないと思いました。
お客様は最低金額よりも、最大でいくらかかるのかの上限金額を知りたい人が多いかと思います。
遺品整理業界全体が見積後の追加料金が発生しない総額表記を提示するようになれば、お客さんも「このくらいかかるなら自分でやろう」「この金額なら頼もう」と判断しやすくなります。
すると、片付けられないまま放置してしまい、結果家が朽ち果てて家の資産価値が落ちてしまうようなケースも防げるでしょう。
遺品整理は体力・時間・運搬手段があれば遺族たちで全部やってもいいし、貴重品や思い出の品を整理したらあとはプロに頼もうと考えてもいい、難しければ全部プロにお願いしてもいい、悩まなくてすむ方が増えたらいいなと思います。
編集後記:遺品整理業の認知は高まってきた一方で、家の中に入ってもらい、家族の品を片付けてもらうことは、まだまだ多少の心理的な抵抗がある人が多いかもしれません。
そんな中、プロとしての仕事に徹し、いい意味で距離感のある「整理のゴダイ」のような業者さんが増えてくれば、依頼しやすいものになりそうです。何よりも料金相場がわかるようになれば、誰もが検討しやすくなるでしょう。
続いて後編では、遺品整理のお伺い先での一日の流れを紹介します。